スイスフランは円と並んで、危機が発生する時の逃避通貨として認識されてきました。
では、この通貨の組み合わせ【スイスフラン/円(CHF/JPY)】の長期的な値動きは、どうなっているでしょうか。今後の見通しも併せて考察します。
スイスフラン/円の長期チャート
下は、DMMFXから引用した長期チャートです。
1976年からの表示ですから、現在の外国為替相場が公式に始まった年以降を示しています。このチャートを見るだけで、いくつもの特徴が見えてきます。
危機発生時の値動き
最初に、下のチャートの矢印部分を見てみましょう。異常値かと思えるような急上昇・急落になっています。
これは何か?ですが、1979年の第二次オイルショックです。
1979年、イランで革命が起きました。当時、イランは世界有数の産油国で、生産設備は欧米の石油メジャーが握っていました。
ところが、革命で生産設備が国有化され、石油を多量かつ安価に確保しづらくなりました。これを受けた値動きです。
この値動きから言えるのは、危機が発生する時は円よりもスイスフランが選好されたということです。
では、危機が起きるとき、いつも円よりスイスフランが選好されたのか?ですが、下のチャートで確認しましょう。
矢印1は、2000年~2001年くらいにかけて下落しています。いわゆるドットコムバブルの崩壊です。
このとき、スイスフラン/円は円高に振れています。すなわち、スイスフランよりも円が選好されました。
矢印2は、2008年のリーマンショックを中心とする時期です。ここでも、円高になりました。
スイスフランと円では、常にスイスフランの方が危機に強いというわけではないと分かります。
そして、矢印3です。これは、ユーロ圏の崩壊危機を受けた値動きです。
スイスはユーロ圏に囲まれていますから、ユーロからスイスに資金逃避が起きやすかったという地理的条件もあるでしょう。
矢印1や2に比べて、スイスフランが圧倒的に強くなる展開でした。
「危機=円高」とならない
以上の考察から分かるのは、ピンチになったらいつでも円高というわけではない、ということです。
下のリンク先記事は、豪ドル/円の長期チャートを考察しています。豪ドル/円に限らず、多くの場合「危機=円高」が繰り返されてきました。大きな違いです。
【参考記事】豪ドル円の見通し【長期】とトレード手法
1990年以降の値動き
以上、1976年以降の値動きを見てきました。もう少し期間を短くして考察します。1990年以降です。
1990年頃と言えば、バブル崩壊と重なります。
日本は、バブル経済崩壊前後で経済の条件が大きく変わりました。株価は下落に転じ、米ドル/円は大幅円高からレンジになりました。
キリが良い数字ですし、1990年以降の長期チャートで見ていきましょう。
上のチャートを見ますと、特徴的な値動きが分かります。補助線を追加したのが、下のチャートです。
1990年代前半、100円を割り込みました。その後、何度か上昇しようとしていますが、なぜかいつも100円付近で跳ね返されている様子が分かります。
1997年~1998年あたりで反落しているのは、アジア経済危機を受けたものでしょう。
そして、2008年付近の反落は、リーマンショック関連の値動きです。
リーマンショック後、レンジ相場となっていましたが、100円を突き破って大きく上昇しました。ユーロ圏の問題が直接の原因です。
さて、この上昇は、2015年1月のスイスショックでクライマックスを迎え、一気に収束しました。
ということは、再び100円よりも円高になったのか…?ですが、実際にはそうなっていません。
その様子を、週足チャートで確認しましょう。ここからは、ラインチャートでなくローソク足です。
スイスフラン/円の週足チャート
下は、2014年くらいからの週足チャートです。左側に、巨大な上ヒゲがあります。これが、スイスショックです。
スイスショックを簡潔に確認しますと、以下の通りです。
スイスショック
ユーロ崩壊危機を受けてユーロ/スイスフランが暴落したため、スイス国立銀行は「ユーロ/スイスフランを1.20より下にさせない」という政策を推進しました。
しかし、ユーロ売り・スイスフラン買いの市場圧力に負けてしまい、スイス国立銀行は1.20の防衛線を放棄しました。これがスイスショックです。
このスイスショックにより、為替レートが一気に動き、いくつものFX会社が経営破綻に追い込まれました。
日本国内でも、借金に陥った顧客が1,000人以上発生しました。スリッページは驚異の1,000pips級だった模様です。その様子は、下のリンク先記事でご確認いただけます。
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スイスショックで発生した損失・借金・チャートなど
2015年1月15日に発生したスイスショックは、いくつものFX会社を経営破綻に追い込む破壊力を持っていました。 日本でも証拠金以上に損失を出した人が続出した模様ですが、一体どれくらいの金額なのでしょう ...
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スイスショック後の値動き
スイスショック後の値動きを見ますと、行き過ぎた値動きの修正が見られます。すなわち、円高です。
ところが、100円を突破するに至らず、その後は110円~120円くらいの範囲で推移しています。
1990年代から2000年代にかけて機能してきた上値抵抗線(100円)が、今度は下値支持線となって強力に作用している様子が分かります。
スイスフラン/円の見通し【円高方向】
ここで、見通しを1つ考察できます。スイスフラン/円は再び100円を割り込んで推移するか?です。
長らく100円未満で推移してきたスイスフラン/円が100円を突破するには、ユーロ圏崩壊危機という巨大なエネルギーが必要でした。
ということは、再び100円割れを実現するには、何か巨大なエネルギーが必要だろうと想定できます。
それは何か?については、将来のことですから分かりません。
入手できる情報を元に考える限り、直近で100円を明確に割り込むような巨大なエネルギーを想定することは困難です。
このため、素直なチャート分析、すなわち「スイスフラン/円=100円が強力な下値支持線となる」が有効に機能しそうだと考察できます。
新型コロナウイルス問題は巨大なエネルギーだったが
ちなみに、2020年に発生した新型コロナウイルス問題は、世界全体を揺るがす大イベントでした。
すなわち、巨大なエネルギーを持っています。
しかし、下の週足チャート(2017年以降を表示)を見ますと、どこで新型コロナウイルス問題が発生したのか分かりません。
これは、スイスと日本に同程度のダメージを与えたからだと想定できます。
為替レートは、「スイスフラン/円」と分数で表示されます。すなわち、円に比べてスイスフランが強くなれば円安になりますし、逆なら円高になります。
スイスと日本は、新型コロナウイルス問題で同程度のダメージを受けたとしましょう。この場合、分数で表示されるスイスフラン/円の数字はさほど動かないということになります。
明確に円高になり、100円をしっかり割り込むためには、スイスフランに比べて円が明確に強くなる必要があります。
スイスフラン/円の見通し【円安方向】
次に、円安方向について見通しを考えてみましょう。もう一度、2014年くらい以降の週足チャートを確認します。
ユーロ圏の崩壊危機を受けた円安が一息ついて、その後はレンジになっています。
巨大なイベントが発生すると、為替レートはしばしば行き過ぎた動きをします(オーバーシューティング)。
ということは、上のチャートで実現している150円という数字は、行き過ぎた為替レートだと見なせるでしょう。
行き過ぎだったから、逆方向(円高)の動きが一気に表面化しました。
ということは、130円、140円、150円…と進んでさらに円安になるには、ユーロ圏崩壊危機以上の巨大なエネルギーが必要なのでは?と想定できます。
この記事を書いている時点では、そのような大イベントを考えるのは困難です。よって、直近では150円を超えるような値動きを想定しづらいと言えます。
ただし、長期的に見れば、スイスフラン/円が150円をしっかり超えるのは、あり得ない話ではありません。
それは、スイスと日本の総合的な国力の方向にあります。
スイスと日本の総合的な国力
- 人口の継続的かつ大幅な減少
- 若者の減少、高齢者の増加
- 一般政府の財政赤字がとても悪い
上の3つは、日本の話です。少なくとも、日本の総合的な国力にとってプラスにならず、マイナスとして作用するでしょう。
では、スイスはどうか?です。人口の推移を確認しましょう。財務省ホームページからの引用です。
数字が細かいので、ざっとイメージで見ていただくだけでも分かりますが、人口(棒グラフ)は右肩上がりになっています。すなわち、人口は増加しています。
赤い曲線は高齢化率です。こちらも右肩上がりになっていますので、高齢化が進んでいると分かりますが、2018年時点での高齢化率は18.5%です。
日本は28.1%ですから、日本の方が圧倒的に高齢化社会です。
財政健全度も、スイスの方が圧倒的に良好です。
以上から、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を元にして、10年~30年の長期で考える場合、スイスフラン/円は大幅に円安になる可能性があるという見通しが立ちます。
中期的な見通し
最後に、中期的な見通しを考察しましょう。今までの考察をまとめますと、以下の通りです。
- スイスフラン/円=100円に強力な下値支持線がある
- 10年単位で見れば、大幅円安になる可能性がある
では、直近~中期的な見通しはどうか?です。
中期的な見通しを考えるため、もう一度、2017年以降の週足チャートを確認します。
これに補助線を追加したのが、下のチャートです。
高値は118円くらい、安値は107円くらい。この範囲で、レンジになっていることが分かります。
そして、2020年の新型コロナウイルス問題では、狭い範囲で激しく上下動しましたが、全体としてはレンジ内で推移しました。
このため、今後もしばらくこのレンジが機能するのでは?と想定できます。
この記事を書いた時点では、上限近くにいます。上限を突破する場合は、今まで上値抵抗線として機能してきた118円が、今度は下値支持線として機能すると期待できます。
こうして、レンジ相場・高値更新・レンジ相場…と繰り返す場合、長期的には円安になりうるという見通しが正解だった、という流れになります。
レンジに適したトレード手法
ちなみに、私たちが通貨ペアについて調べたり考えたりする理由は、通貨ペアを研究するためではなく、値動きの特徴を知ってトレードに生かすためです。
そして、調べた結果、中期的にはレンジ相場であると想定できました。
では、レンジ相場に向いたトレード手法は何か?です。これは、リピート系FXでしょう。
レンジ相場は、一定の範囲を行ったり来たりする状態です。リピート系FXは、このような値動きを大得意とします。
スイスフラン/円でリピート系FXができる主なFX会社(サービス名)は、以下の通りです。
- ループイフダン
- トライオートFX
- 連続予約注文
スイスフラン/円を取引できるFX会社、以外に多くないので、選択肢は限られます。
まとめ
スイスフランも円も、危機発生時の逃避通貨として機能してきました。
しかし、スイスフランと円の関係を見ますと、どちらがより選好されるかについては、時代とともに変化してきた様子が分かります。
チャート分析をしますと、特徴的な値動きをしているので、その動きをうまく捉えることにより、トレードでの成功を期待できます。
長期チャート分析・見通し