世界的に低金利時代ですが、スワップポイントはゼロではありません。ということは、スワップポイントで生活できれば最高です。
ポジションを持つだけで、自動的に収入を得られるからです。さて、この希望は実現可能でしょうか。
生活に必要なスワップポイントの額
先に、必要な額はいくらか?を考えます。そうすれば、その額を得るにはどうすべきか?が分かります。
ここでは、少しでもコストを抑えることを考えます。
東京都心で一人暮らしする場合、家賃だけで大きな額が必要です。わざわざ高い地域に住む必要はないので、田舎に住むとします。家賃は2万円くらい。
あと必要なのは、食費・被服費・交通費やお小遣いなど。質素な生活をするとして、月8万円。
すなわち、1か月の合計で10万円。
文字通りスワップポイントだけで生活したい人は、わずかでしょう。暇すぎるからです。そこで、別のところでも多少の収入を得るとすれば、月10万円はありうる選択肢です。
なお、忘れそうですが、税金・社会保険料(年金や健康保険)も必要です。
この辺は、収入が少ないということで減免してもらったり、別の収入から支払うとしましょう。
1か月10万円では話にならない、という場合は、ここから考える内容の数字を2倍、3倍としていけばOKです。
1日あたりの金額と必要ポジション
以上の検討で、1か月10万円が必要と試算しました。ということは、この数字を30日で割れば、1日あたりの金額が分かります。
すなわち、3,334円です。分かりやすく、3,400円としましょう。
1か月10万円を考える場合、「10万円では生活できないよ…」と感じてしまいますが、スワップポイントで毎日3,400円と考えると、道のりは厳しいと予想できます。
- 1万通貨あたり100円の場合、34万通貨
- 1万通貨あたり50円の場合、68万通貨
- 1万通貨あたり10円の場合、340万通貨
とても大きなポジションが必要です。
ポジション保有を考えるだけなら、この数量は可能かもしれません。しかし、年間を通して考えると、為替レートは波乱相場になることがあります。
その状況でも、強制ロスカットにならず余裕で耐えられる状態が必要です。
米ドル/円の場合
もっと具体的に考えるために、日本で最も取引が盛んな米ドル/円で計算しましょう。
まず、スワップポイントの大きさ。くりっく365で確認しますと、2020年12月の平均的な大きさは1万通貨あたり10円台前半です。ここでは仮に12円としましょう。
計算しますと、必要なポジション数は283万通貨です。
そして、どこまで波乱相場を想定するか?ですが、下の長期チャート(DMMFXから引用)を見ますと、米ドル/円の円高記録は75円台だと分かります。
日々の相場をハラハラしながら眺めるのは、心臓によくありません。波乱があっても余裕で相場を見守るために、米ドル/円=75円になってもOKという資金量を準備します。
そして最後の条件として、米ドル/円=100円で買うとします。
- 購入レート:100円
- 購入数量:283万通貨
- 円高記録:75円
以上の条件から必要資金を計算しますと、82,070,000円(8千万円以上)となります。
8,000万円あったら、毎月10万円を得るために米ドル/円に全額投入しようとは思わないでしょう。よって、現実味がないという結果になりました。
現実味がある状況にするには
少なくともこの記事を書いた時点で、米ドル/円で狙うのは非現実的だと分かりました。
何か修正が必要です。
- スワップポイントの大きさ
- 円高記録と現在の為替レートの差
スワップポイントが10倍になれば、必要なポジション数は10分の1になります。そこで、高金利通貨ペアが選択肢になります。
また、米ドル/円が現実的でないという結果になったのは、取引開始レート(100円)と円高想定レート(75円)の間の距離が大きすぎたことにあります。
すなわち、この差が小さい通貨ペアを選択すればOKですので、例としてトルコリラ/円で検討してみましょう。
トルコリラ/円は高金利通貨ペアですし、為替レート水準が小さい(10円台)ですので、巨額な資金は不要かもしれません。
トルコリラ/円のスワップポイントは、他の通貨ペアと比較して大幅に大きな数字です。「トルコリラ/円を買って持てば、生活できるかも?」と感じるかもしれません。
そこで、実現可能かどうか考察します。
トルコリラ/円のスワップポイント推移
日々のスワップポイントと為替レートの関係を、確認しましょう。
スワップポイントは、FX会社ごとに数字が大きく異なります。そこで、公的な取引所である「くりっく365」を利用します。2015年以降のデータが公開されています。
縦軸は、左側が為替レート、右側がスワップポイント(1万通貨当たり)です。
スワップポイントは、水曜日から木曜日にかけて、通常の3倍になります(土日の分が加算されるため)。このため、日によって数字が大きく変化します。
そこで、7日移動平均線(1週間の平均値)でグラフを作りました。
特徴
上のグラフを見ながら、特徴を見てみましょう。
スワップポイントが大きい
一般的に、トルコリラ/円は高金利通貨ペアとして知られています。それを裏付けるグラフになっています。
上のグラフを見ると、2019年半ばまで100円~200円くらいを中心とした範囲で動いてきたことが分かります。
1万通貨を買っていて1日100円もらえる場合、1日で1銭の利食いと同じ効果があります。1年で365銭の利食いと同等という意味ですから、大きな数字です。
しかし、2019年半ば以降、数字が大幅に低下している様子が分かります。1日あたり20円台~30円台となっています。
特異日がある
全体的に見ますと、通常は100円台なのに、600円前後になっている日が散見されます。
実際には、1日で1万通貨あたり1,000円以上の数字がついています(グラフは7日移動平均なので、数字が小さく見えます)。
300円前後も含めますと、年に数回は特異日があると分かります。この時にトルコリラ/円の買いポジションを持っていたら、とてもうれしいでしょう。
円高だが大きなスワップポイント
一般的に、円高になるとスワップポイントは小さくなります。1万通貨を買う場合の例で、確認しましょう。
ところが、冒頭のグラフを見ますと、トルコリラ/円は円高一辺倒に見えるのに、2019年半ばまで数字が維持されているように見えます。
この原因を探るために、トルコの政策金利を確認しましょう。
2018年に、大きく跳ね上がりました。政策金利の上昇が、円高にも関わらずスワップポイントが大きかった原因の一つと言えそうです。
なお、2019年になって、急激に下落している様子が分かります。
これが、2019年半ば以降のスワップポイント低下に影響を与えていると予想できます。
なお、2020年半ば以降、政策金利は再び勢いよく上昇しています。円高傾向は続いていますが、さらなる上昇に期待できるかもしれません。
ちなみに、スワップポイントは、政策金利を基準にして決められる数字ではありません。市場間短期金利で決められます。
政策金利は、市場の短期金利に大きな影響力を持っています。また、データの取得が容易です。そこで、考察の際に政策金利を便宜的に使うことがあります。
トルコリラ/円の為替レート
今までの考察で、トルコリラ/円のスワップポイントは大きな数字だったことが分かりました。
将来どのようになるのか、それは誰にも分かりません。しかし、他のメジャー通貨ペアと比較して、魅力的な数字です。
しかし、心配な点があります。為替レートです。為替レートが円高基調では、面白くありません。
- スワップポイント:利益
- 円高:含み損
この関係になってしまうからです。そこで、為替レート推移を確認しましょう。下の月足チャートは、セントラル短資FXからの引用です。
長期的な円高です。2007年には100円近くでしたが、2020年には10円台前半となっています。
すなわち、2007年の最高値で1万通貨買っていたら、現在の含み損は86万円くらいになります。
では、完全に損かと言えば、そうでもありません。スワップポイント益があるからです。スワップポイント益と含み損の力関係で勝敗が決まります。
為替レートはマイナスにならない
ここで、1つのポイントがあります。為替レートは0に近づくことはあっても、マイナスにならないという点です。
一方、スワップポイント益を積み上げる場合、上限はありません。
- 含み損:上限あり
- スワップ益:上限なし
というわけで、超長期で考える場合、最終的にはスワップポイント益の方が勝ると予想できます。
スワップポイント生活は難しい
以上の考察を元に考えますと、トルコリラ/円でスワップポイント益の生活は厳しいと言えそうです。含み損が厳しいためです。
同じ傾向は、他の新興国通貨ペア(南アランド/円、メキシコペソ/円など)にも当てはまります。
見た目の収益は大きくても、トレード開始タイミングを誤ると、含み損を差し引いたらそうでもないという感じになりそうです。
よって、長期間運用して決済したときに利益になる、という目標のトレードになりそうです。
トルコリラ/円の買い時
含み損が嫌だから、トルコリラ/円を買うのをやめよう、という選択肢があります。
一方で、為替レートは一直線に下落しているわけではないし、スワップポイントは大きいから、トレードしてみたいという場合もあるでしょう。
そこで、含み益もスワップポイント益も同時に得る買い時を考察します。
下の月足チャートをご覧ください。赤の矢印を3つ追加しました。為替レートの急落があったところです。
それまでの状況に比べて一気に大きな下落が実現すると、その後、1年前後はレンジまたは円安で推移している様子が分かります。
上のチャートは月足ですから、レンジや円安の期間が短く見えるかもしれません。しかし、1年というのは長期間です。
そこで、矢印の時点で買って、1年後に売ればトレードの成功を期待できます。
しかし、実際にチャートを眺めていて、大きな下落に遭遇したとしましょう。それがレンジや上昇トレンドの始まりサインなのか、それとも下落が継続するのか、判断が難しいです。
そこで、下のグラフをもう一度見てみましょう。
青の曲線は、為替レートの動きです。
今までに比べて巨大な下落があると、巨大なスワップポイントが出現していることが分かります。
すなわち、「月足ベースで大きな円高になり、スワップポイントの特異日が発生したら、レンジまたは円安への転換の可能性がある」ということです。
今後も同様になるかどうか、不明です。しかし、参考になりそうです。
可能性なので、自己資金を一気に投入するのは良くないでしょう。買うなら、少しずつです。
新興国通貨ペアのリスクにも配慮
なお、トルコや南アフリカなどの新興国は、政治や経済の安定性という点で、先進国と比べてやや懸念があります。
このため、自己資金の全額をこれらに投入するのは、おすすめできません。少しずつ投入します。
成功できればOK、成功できなくてもダメージは小さい、そんな感じですと、安全度を高くできそうです。
結論
先進国通貨ペアの代表格である米ドル/円、そして、新興国通貨ペアの代表格であるトルコリラ/円を例にして考察しました。
結論を一言で書くなら、「スワップポイントで生活するのは難しい」です。
しかし、不可能というわけではなく、昔のように数字が大きくなったら、検討の価値がありそうです(米ドル/円を1万通貨買うと毎日150円以上もらえる、という時代がありました)。
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