2019年8月から毎月、各FX会社のカバー取引状況が公開されています。そこで、その内容を確認しましょう。
カバー取引とは
最初に、カバー取引とは何か?の確認をします(下の絵は、FX取引のイメージ図です)。
FX会社は、インターバンク市場(銀行間取引市場)から価格情報を取得し、顧客に提示します。そして、顧客は、その数字を見ながらFX取引をします。
ある顧客が、米ドル/円を買ったとしましょう。FX会社から見れば、米ドル/円を売ったことになります。
- 顧客:米ドル/円の買いポジション
- FX会社:米ドル/円の売りポジション
この状態になります。すなわち、円安になったら、顧客は含み益になりますが、FX会社は含み損になります。顧客の取引額によっては、大変な損失になります。
将来の相場を確実に読むことは、FX会社にもできません。このままでは、少々心配です。
そこで、FX会社は、インターバンク市場で米ドル/円を買います。すると、売りポジションと買いポジションが相殺しあって、損失リスクが消滅します。
これが、カバー取引です。
カバー取引の例
FX会社は、米ドル/円を顧客に売って、100万通貨の売りポジションを持っています。そこで、インターバンク市場から100万通貨を買いました。
すると、その後は、為替レートが上昇しようと下落しようと、含み損益に増減はありません。
カバー取引は、FX会社の経営を確実にするために、重要な役割を担っています。
各FX会社の状況
では、各FX会社のカバー取引の状況は、どうなっているでしょうか。主なところについて表にまとめました。
各FX会社の名前部分をクリックしますと、根拠となったデータが公表されているURLに移動します。
未カバー率 | カバー取引の状況 | 平均証拠金率 | |
---|---|---|---|
セントラル短資FX | 0% | 100% | 33% |
アイネット証券 | 0% | 1.0% | 23.7% |
マネースクエア | 0.4% | 100% | 34.5% |
FXプライムbyGMO | 0.08% | 100% | 26.74% |
ヒロセ通商 | 0.7% | 100% | 32.7% |
インヴァスト証券 | 1.31% | 100% | 25.12% |
YJFX! | 2.32% | 100% | 19.57% |
マネーパートナーズ | 1.61% | 100% | 23.08% |
トレイダーズ証券 | 9.65% | 23.53% | 23.08% |
DMMFX | 54% | 78% | 18% |
調査日: 2020/8/13 |
項目が3つあります。それぞれについて、意味を確認しましょう。
未カバー率
FX会社は、顧客と取引します。そこで発生したFX会社のポジションのうち、カバー取引をしていない率です。
計測方法
あらかじめ決められた計測日について、23時・25時・27時の3地点でカバー取引していない率を計測します。3つの数字の中で最大の数字が、表に書かれています。
完全にカバー取引をしていれば、0%になります。全くカバー取引をしていなければ、100%になります。
カバー取引の状況
これは、カバー先の健全性に関する数字です。
カバー取引をしていても、カバー先の金融機関が経営破綻すると、FX会社にもマイナスの影響が及びます。そこで、カバー先の金融機関の安全度を確認できます。
具体的には、BBB格以上の格付の金融機関へのカバー取引率が、掲載されています。
計測方法
未カバー率と同様です。特定の日の3地点で計測し、BBB格以上のカバー取引先における建玉の合計額が最大となる時点の数字が、掲載されています。
平均証拠金率
この数字で、顧客がどのような取引をしているかが分かります。顧客の全ポジションの合計額に対して、口座清算価値がどれほど大きいかという数字です。
この数字が大きいほど、相場の急変に耐えられます。数字が小さいと、強制ロスカットになりやすいです。
計測方法
特定の計測日の取引終了時点において、平均証拠金率を算出します。
調査の評価
では、各FX会社の数字を評価してみましょう。
未カバー率
未カバー率は、0%であることが望ましいです。
仮に100%だとすると、2008年のリーマンショックや2015年のスイスショックに匹敵する大波乱があるときに、強靭な体力がないと企業経営が厳しくなるかもしれません。
その視点で見ますと、セントラル短資FXとアイネット証券は、安全度が極めて高いと評価できます。
どの数字までが許容範囲かというのは、具体的に示すことが難しいです。しかし、トレイダーズ証券の9.65%までは許容範囲なのでは?という感触です。
(根拠は?と聞かれると困るのですが、全体のうち90.35%がカバー済ということですので、何かあっても経営を維持できるだろうという予想です。)
その一方で、おや?という数字が出ているのが、DMMFXです。未カバー率が54%です。
理由は何だろう…。強引に予想してみます。
予想:
顧客の特定のポジションについて、DMMFXの調査によれば、今後の為替は逆方向に進むと考えている。すなわち、カバー取引しないでポジションを保有する方が合理的だ。
ただし、外れる可能性もある。そこで、いつでもカバー取引する準備はできているし、仮に損失が発生しても大丈夫な体力(資金)もある。
例えば、顧客と取引してマリー取引も駆使した結果、FX会社が持っているポジションは買いポジションだとします。
そして、FX会社は、今後は円安になると見込んだとします。この場合、自社保有の買いポジションについて、カバー取引しないで保有を続けるのが合理的です。
そこで、一部のポジション以外は、未カバーとします。
これは、ゆったり為替の予想です。よって、正解かどうか不明です。これ以外の理由としては、何がありうるかな…。さらに考えると、頭の体操になりそうです。
参考:マリー取引
FX会社としては、素直にカバー取引をすると、収益率が高くなりません。カバー取引とはすなわち、外部金融機関との取引です。一定のコストが必要だからです。
そこで、カバー取引しない方法を考えます。例えば、下の発注があったとしましょう。
- 100.00円で買い注文10万通貨
- 100.00円で売り注文10万通貨
この場合、カバー取引せず、自社システム内で相殺すればOKです。2人の顧客に確実に取引してもらったうえで、自社のポジションはゼロとなります。
スプレッド分全体が、FX会社の収益となります。これをマリー取引と呼びます。
カバー取引の状況
カバー取引の状況は、カバー先金融機関の健全度を見る指標です。よって、100%が望ましいです。
多くのFX会社が、100%になっています。
しかし、アイネット証券などが、極端に低い数字になっています。これは健全度が低いという意味ではありません。カバー先が格付を取得していなければ、評価できません。
格付未取得の金融機関等がカバー先だと、数字が小さくなります。
気になる場合は、上の表のFX会社名をクリックして、数字の内訳(BBB格以上・BB格以下・格付未取得)を確認してみてください。
数字が大きい方が良いと単純に評価できないのが、少々難しい点です。100%ならば、安全度が高いです。
平均証拠金率
この数字は、FX会社の問題というよりは、顧客の問題です。どれほど安全度が高い取引をしているか?という指標です。
ポジション総額に対して、証拠金額の割合はどれくらいかかが分かります。数字が大きければ大きいほど、ショックに対して強いことを示します。
概ね、2割~3割台の範囲に収まると言えそうです。すなわち、レバレッジは3倍~5倍くらいです。
最も数字が小さいのは、DMMFXです。逆に、最も数字が大きいのは、マネースクエア(M2J)です。顧客の性質がそのまま表現されていると言えそうです。
高レバレッジのデイトレードを好む顧客が集まっている(高レバレッジで中長期トレードは困難)。
トラリピが主力であり、顧客は中長期の低レバレッジで運用している。
FXは、大半の顧客が損します。そして、多くの顧客がデイトレードを好むなら、ポジションは当日中に決済されます。
ならば、カバー取引の割合を小さくするのは合理的かもしれません(DMMFXのカバー率は低いです)。
安全度重視でFX会社を選ぶなら
安全度重視でFX会社を選びたい場合、上の数字が参考になります。この数字とともに、自己資本規制比率の数字を見ますと、より確実に安全なFX会社を検討できます。
こちらは、数字が大きいほど安全度が高いです。
FX会社名 | 自己資本規制比率 |
---|---|
YJFX! | 1,292.0% |
セントラル短資FX | 958.2% |
FXプライムbyGMO | 900.1% |
ヒロセ通商 | 737.3% |
インヴァスト証券 | 569.0% |
IG証券 | 512.6% |
DMMFX | 510.5% |
マネーパートナーズ | 409.7% |
トレイダーズ証券 | 401.2% |
マネースクエア | 393.6% |
<調査日:2020年8月26日> |
上の二つを総合的に見ますと、安全度はセントラル短資FXが優位に立っていると言えそうです。
2010年の状況
参考までに、2010年当時のカバー状況を確認しましょう。当時と比べることで、現在の安全度の高さを考えることができます。
FXの監督官庁は金融庁です。金融庁が、調査結果を公表しています(引用:金融庁「外国為替証拠金取引業者に対する一斉調査の結果について」)。
カバー率 | 割合 |
100% | 73% |
90%以上100%未満 | 4% |
70%以上90%未満 | 4% |
50%以上70%未満 | 7% |
30%以上50%未満 | 5% |
30%未満 | 7% |
2010年当時、カバー率が30%に満たないFX会社が7%ありました。30%未満というのは、とても低い数字です。
全体的に見て、カバー率は高くなっていると評価できます。その分だけ、FX会社の安全度は高くなっています。