昨年2019年1月は、瞬間的かつ巨大な円高から始まりました。
2020年は穏やかにお正月を迎えたかと思いきや、緊張感が高まるニュースが飛び込んできました。
米軍による、イラン司令官の殺害です。なぜか日本では報道が少ないですが、BBCやCNN等で大きな扱いになっています(1月4日になって、日本でも報道が増えてきました)。
そして、FXという視点で見る場合、今後の為替レートはどうなるか?が気になるところです。
米国とイランの緊張と今後の米ドル円
米国とイランは既に交戦状態にある、と考えるのが自然でしょう。どれくらい大規模になるかについては、イランの報復の大きさ次第と言えそうです。
小規模で収まるのが望ましいですが、シミュレーションとしては、悪い事態を想定しておくのが安全です。そこで、大規模な戦闘に発展する場合を考察しましょう。
米国とイランが大規模に交戦した過去があれば、その時の為替レートを分析することができます。
そのような過去はないようです。そこでまず、米ドル円の今後を想像してみましょう。
ゆったり為替は、湾岸地域の専門家ではありません。その状態で考えると、こんな感じになりました。
- 米国とイランの緊張の高まり
- イランはペルシャ湾に面する大国
- すなわち、原油の円滑な生産・輸出が阻害される
- 原油価格の急騰&危機時の円高が進行
では、今後の米ドル円は円高になるか?ですが、参考になる事例がありそうです。すなわち、湾岸戦争及びイラク戦争です。
湾岸戦争・イラク戦争時の米ドル円
イラクは、米国を中心とする多国籍軍と、大規模な戦闘を経験しています。1991年と2003年です。
- 1991年1月:イラクによるクウェート併合を契機とする戦闘
- 2003年3月:米英軍によるイラクとの戦闘(フセイン政権の崩壊)
地理条件を確認しましょう。google mapからの引用です。
イランとイラクは、お互いに接しています。米国とイラクの関係を、米国とイランに当てはめて参考にできそうです。
そこで、1991年1月と2003年3月の米ドル円チャートを確認しましょう(DMMFXから引用)。矢印部分です。
いずれの矢印でも、円高トレンドになっていることが分かります。しかし、この円高は戦争の影響だと考えるのは難しそうです。
と言いますのは、1991年時点では、バブル崩壊の影響度の方が圧倒的に大きかったと予想できるためです。
1991年1月前後を見ますと、円高というよりもむしろ、反発して円安気味になっている様子が分かります。
また、2003年3月前後の矢印(右側)をよく見ますと、円高でなくてレンジになっています。イラク戦争で円高になったと表現するのは、無理がありそうです。
1990年後半から1991年にかけての米ドル円
チャート形状について、もう少し詳しく確認しましょう。1990年8月から1991年3月にかけての、米ドル円の推移です。
このチャート形状を見ますと、1990年11月以降、右肩上がりになっていることが分かります。月足チャートと比べると、イメージが異なります。
ただし、1991年に入ってすぐに、円高になっている様子が分かります。高値と安値の差を見ますと、8円くらいあります。この部分は、湾岸戦争の影響だと言えなくもありません。
とはいえ、「戦争で円高になった」という表現は、少々無理があるように感じます。
1990年8月
では、湾岸戦争の契機となった、イラクによるクウェート占領はいつか?ですが、1990年8月です。8月から10月にかけて、一気の円高になっていることが分かります。
ということは、150円から125円にかけての円高が、戦争の影響と言えるでしょうか。
ここは、評価が少々難しいかもしれません。と言いますのは、日銀の政策がマズかったためです。1990年10月に、公定歩合を0.5%引き上げ、6.00%としました。
これがバブル崩壊と重なってしまい、株価の急落を呼び込んでしまいました(以下、株価の継続的下落へと続きます)。
結果論的な考察になりますが、日銀の行動が適切だったなら、ここまでの円高にならなかった可能性があります。
いずれにしましても、バブル崩壊という巨大なイベントがありますので、湾岸戦争の影響度を測るのは難しそうです。
2003年上半期の米ドル円
次に、2002年11月から2003年6月にかけての日足チャートを確認しましょう。こちらは、ローソク足チャートです。
横軸は、月を示します。
2003年3月に開戦しましたが、いきなり始まったわけではなく、兵力の配置や外交戦など、開戦までに高い緊張感がありました。
その割には、と言いますか、米ドル円の反応は鈍いように見えます。全体としては円高ながら、2003年以降はレンジになっています。
2002年12月に、比較的大きめの円高があります。これはイラク戦争の影響か?と問われれば、「分からない」という回答になりそうです。
この程度の値動きは、珍しくないためです。
また、ドットコムバブル崩壊に関連した円高トレンドも、考慮しなければならないでしょう。
2003年2月から3月(開戦月)を見ますと、円高に振れていますが、ほどなくして元の位置に戻っています。戦闘自体は、4月前半には終了しました。
2月の高値から3月の安値に至る部分が戦争の影響だとしても、その差は5円くらいに収まっています。
今後の米ドル円の値動き
以上の考察を踏まえますと、円高一辺倒という予想は難しいように思います。
円高もありうるけれど、過去の事例を見ればレンジも十分ありうるという想定が自然に見えます。円安になる可能性は、低めに見積もることになるでしょう。
円高だけでなく円安可能性を考える理由は、円安になった時に慌てないようにするためです。
下は、2018年以降の米ドル円の週足チャートです。米国のイラン攻撃を受けて、一番右のローソク足が大きな陰線になっています。
5円程度円高に進むとしても、当座は105円までかな、と想定できそうです。
ただし、イラク戦争と今回の状況は、地域が同じというだけで、値動きについては関連が薄い可能性もあります。よって、105円よりも円高に進む可能性も考慮します。
この場合、月足チャートで作られたペナントを下方向に抜けることを意味します。下の月足チャートの通りです。
この場合は、米国・イランの状況というよりも、ペナントが終了して下方向に抜けたという理由で、円高が進行する可能性があります。
ペナント終了後に円高方向に抜ける場合、目標値は100.00円あたりになるでしょう。
どんな値動きにもついていける準備を
こうしてみると、ゆったり為替は可能性ばかり考えていて、予想していないことが分かります。
「円高になるかもしれないけれど、レンジを主軸に考えて良いのでは?でも、105円を超える円高の準備や、反対に円安になる可能性も考えて…」ですから、何も言っていないも同然に見えるかもしれません。
これは、事前に予想せず、どんな状況になったらどうする?というシミュレーションを繰り返すことを意味します。
何もしないという意味ではありません。相場の世界では、想定外という言葉に価値はありません。相場にお金を吸い取られて終了となります。
そうならないよう、シミュレーションを繰り返します(それでも、お金を吸い取られる…相場は難しいです)。
それでも敢えて予想するならば、「円高になるとしても105円まで」という見通しです(ただし、トレードはこの見通しに縛られず、柔軟に対応します)。