2015年1月15日に発生したスイスショックは、いくつものFX会社を経営破綻に追い込む破壊力を持っていました。
日本でも証拠金以上に損失を出した人が続出した模様ですが、一体どれくらいの金額なのでしょうか。
その状況が公開されていますので、確認しましょう。また、スリッページの状況も併せてチェックします。
スイスショックでの損失や借金
金融先物取引業協会のデータを基に、表を作成しました。金額の単位は百万円です。
件数 | 金額 | 1件当たり金額 | |
個人 | 1,137 | 1,948 | 1.7 |
法人 | 92 | 1,440 | 15.7 |
合計 | 1,229 | 3,388 | 2.8 |
この数字は、FX会社が回収できていない金額を示しています。すなわち、借金です。
FXでトレードをするには、証拠金を入金します。損失を計上しても、通常は入金した証拠金が減るだけで済みます。
借金になっているということは、以下の通りです。
- 口座残高がゼロ円になる
- さらに、借金を背負う
あまりに痛いです。
借金が大きすぎると、FX会社が倒産する
ちなみに、顧客の借金は、FX会社に対して背負うものです。FX会社は、顧客から借金を回収します。
FX会社から見れば、お金を貸し付けている状態です。自社の体力以上に貸付が大きくなると、資金ショートが起きます。すなわち、経営破綻です。
2015年1月15日のスイスショックで、今まで何ともなかった(ように見えた)FX会社が、いきなりいくつも経営破綻しました。
スイスフランを含む通貨ペアは、日本FX市場ではマイナーです。よって、顧客は34億円ほどの借金ですみました(それでも、大きな額ですが)。
スイスフランの取引が多い欧州市場では、もっと多額の借金が発生したと予想できます。
個人の損失の状況
では、個人の損失状況を中心に確認しましょう。
個人で証拠金以上に損失を出した人は、1,137名です。合計で19億円以上にもなります。一人あたり170万円という額です。
法人は、件数は個人に比べて少ないものの、1件あたり1,500万円以上の借金です。個人、法人ともに大きな額を損したことが分かります。
ちなみに、2019年1月3日にも、大きなショックが起きて、多くの人が借金になりました。その状況と比較してみましょう。
金額の単位は、百万円です。
件数 | 金額 | 1件当たり金額 | |
個人 | 6,389 | 808 | 0.126 |
法人 | 209 | 135 | 0.645 |
合計 | 6,598 | 943 | 0.142 |
この時は、円が急騰しました。よって、スイスショックに比べて借金になった件数が多くなっています。
その一方で、借金の額は、スイスショックと比較すると、少ない額になっています。
円が絡む通貨ペアで、スイスショック並の大波乱があったら、どうなるでしょう?混乱という表現では適切でないほど、日本のFX市場は混乱するでしょう。
これが、FXのレバレッジ10倍規制議論の背景の一つだと予想できます。
巨大なスリッページ
なお、スイスショックが発生した際、各FX会社で巨大なスリッページが発生しました。
ウェブサイトの情報によると、1,000pips級にもなった会社があるようです。
ゆったり為替は、ユーロ/スイスフラン(EUR/CHF)の買いポジションが全滅しました。しかし、インヴァスト証券のトライオートFXを使っていて難を逃れました。
というのは、スリッページがほとんどなかったのです。使っているFX会社が違うというだけで、明暗が分かれました。
ゆったり為替のスリッページ状況
ゆったり為替のトレードにおけるスリッページは、以下の通りです。
- 損切り注文レート:EUR/CHF=1.19850
- 実際の約定レート:EUR/CHF=1.19813
スリッページは3.7pipsでした。
ウェブを検索すると、EUR/CHF=1.19台で損切り注文を出したのに、スリッページがひどく大きくて嘆いている投稿が見つかりました。
どのレートで発注していたのかなど詳細不明ですので、実情は分かりません。しかし、多額の借金を抱えてしまうようなスリッページが出てしまった例もあるようです。
それを考えると、ゆったり為替がトライオートFXで取引していたのは、幸運だったというほかありません。
巨大なスベりがある人がいる状況で、ゆったり為替のスリッページはわずか3.7pipsです。
文章で多くの説明をするよりも、この事実一つを確認するだけで、トライオートFXの約定能力が極めて高いことが分かります。
各FX会社のレート配信状況
スリッページに関連して、スイスショック時の為替レート配信状況について、SBIFXトレードで興味深いグラフが公開されていました。下の通りです。
(縮小していますので、少々見づらいです。ご容赦ください。)
上は、スイスショックが発生した18時30分ごろから1時間の、スイスフラン円のチャートです。A社~D社とSBIFXトレードの合計5社が、掲載されています。
紫色で、ギザギザと動いているのは、SBIFXトレードです。すなわち、スイスショックの最中も、為替レートを配信していました。
その一方で、灰色の横線になっているFX会社が、いくつもあります。この灰色の横線になっている間は、為替レートの配信がありませんでした。
すなわち、こういうことです。
- 損切りしたくても、できない
- 利食いしたくても、できない
悲惨です。そして、為替レート配信が再開すると、今までとはあまりに異なる為替レートが表示されて、巨大な損が発生したということです。
こうして、1,000pips級のスリッページが発生し、一定の個人投資家が巨大な損失を計上した模様です。
スイスショックの引き金【スイス国立銀行声明文】
少し、視点を変えてみます。スイス国立銀行(スイスの駐豪銀行)の声明文です。
声明が発表されるまで、スイス国立銀行は「ユーロ/スイスフラン=1.20のラインは必ず維持する」という趣旨の発言を繰り返していました。
ところが、一つの声明により、その政策は突然の終わりを迎えました。そこで、スイス国立銀行の声明文を確認しましょう。
以下は、スイス国立銀行声明の要約です(引用元:スイス国立銀行のプレスリリース)
- スイス国立銀行は、EUR/CHF=1.20の制限を撤廃する。
- 要求払い預金のうち、規定額を超える額の金利は-0.25%だったが、これを-0.75%にする。
- 政策金利誘導目標を、-1.25%~-0.25%とする(従来は、-0.75%~0.25%)。
- EUR/CHF=1.20の制限は、スイスフランの過大評価と金融市場の不安定化阻止のために導入された。
- しかし、過大評価の度合いは緩和された。
- ユーロは米ドルに対して弱くなった。すなわち、スイスフランは米ドルに対して弱くなった。
- よって、EUR/CHF=1.20を継続することを正当化できない。
- スイス国立銀行は、EUR/CHF=1.20の撤廃が金融市場の不適切な引き締め状況に結びつかないよう、政策金利を引き下げる。
- スイス国立銀行は、必要ならば外国為替市場において引き続き活動を続ける。
この撤廃を予想することは、とても困難でした。
2014年11月末日のスイス国民投票において、スイス国立銀行は金融政策維持の重要性を説いていました。
また、その2週間余り後の12月18日には、マイナス金利を含む措置を導入しました。その際、lEUR/CHF=1.20維持を改めて明示していました。
そのときから、わずか1か月しか経過していません。
ゆったり為替のEUR/CHFの買いポジションは当然のように全滅しましたが、損切り発注をしていたために資金が残りました。改めて、損切りの重要性を実感しています。
トレードチャンスを見つけられず
この暴落を確認してから、ゆったり為替がとった行動は何でしょうか。
実際には、買うことも売ることもできませんでした。スプレッドが数百pipsもあったため、トレードになりませんでした。
こんな大きなスプレッドは、見たことがありません。東日本大震災の際は、生きることが第一の目標でした。よって、相場を確認していません。当時もこれくらいだったかもしれません。
ユーロ/スイスフランのチャート
では、この時の為替レートの動きは、どうだったでしょうか。ユーロ/スイスフランの日足チャートで確認しましょう。
下は、くりっく365から日足四本値を取得し、チャートにしたものです。
くりっく365のデータでは、最安値は1.00を下回るくらいになっています。しかし、FX会社によっては、0.8台を記録したところもあるようです。
この差の理由ですが、インターバンク市場があまりに混乱していて、各社の配信レートに大きな乖離が出ていた可能性があります。
また、スプレッドが数百pips以上ありました。それも、チャート上の描画に影響を与えているでしょう。
なお、上のチャートは、日足です。しかし、巨大な陰線が出ている2015年1月15日は、1日かけて作られたものではありません。わずか数十分以内で作られた陰線です。
くりっく365では、2,000pipsの暴落です(FX会社によっては、3,000pipsを越える場合もあったようです)。
いかに大変な暴落だったか、良く分かります。
スイス株式市場の様子
なお、スイス自身へのダメージがどれほどか、確認してみましょう。スイス株式市場のインデックスです。
- 1月14日終値 :9,198くらい
- 1月15日最安値 :7,930くらい
およそ、1,268ポイントの下落です。率にして、13.7%くらいです。
極めて大きな数字です。日本の株式市場で13.7%下落する場合を考えますと、その大きさがよく分かります。日経平均株価が2万円だとしますと、わずかな時間で17,200円くらいになるというイメージです。
いきなりの政策変更ですので、スイス国立銀行への風当たりが強くなったことでしょう。
政策金利を引き下げ
なお、スイス中央銀行は、EUR/CHF=1.20の撤廃と同時に、政策金利を大幅に引き下げました。
そこで、スイスの金利の実勢レートを確認するとともに、スワップポイントの様子も確かめてみましょう。
下のグラフは、スイス国立銀行(スイスの中央銀行)からの引用です。政策金利(3か月物LIBOR)の推移を表しています。
EUR/CHF=1.20の制限を終了した時から、急落していることが分かります。マイナス圏でぐんぐん下落。
ということは、スイスフランを売る場合のスワップポイントは、大きくプラスになるのでは?と予想できます。
下の表は、GMOクリック証券で10,000通貨を買うときの、スワップポイント推移です。縦軸の数字は円です。
グラフで読み易くするために、付与日数が1日でない場合は1日あたりのスワップポイントに調整しています。
EUR/CHF=1.20終了後に数字がジャンプしていることが分かります。スイスフランを売るポジションを持つと、獲得できるスワップポイントが大きくなるということです。
- スイスフランを売ると、大きなスワップポイントをもらえそう
- スイスフランを含む通貨ペアは、過去最低水準を更新して安値
それでも、スイス国立銀行を信用するしかない
多くの投資家が、スイス国立銀行の突然の政策変更で、損失を被りました。
そこで、「もうスイス国立銀行なんて信用しない!」と言ってしまいたいところですが、残念ながらそれは難しいでしょう。
スイス国立銀行の政策変更により、以下の構図を予想できます。
- 損した人 :スイス国立銀行を信用していた人々
- 得した人 :スイス国立銀行の行動に懐疑的だった人々
素直な人々が損してしまったという、あまり良くない状況。
最大限の決意(utmost determination)でユーロ/スイスフラン(EUR/CHF)=1.20を守るというスイス国立銀行の発表は、何だったんだ?ということです。
そこで、もうスイス国立銀行の情報を無視したり、「また同じことがあるんじゃないか?」と懐疑的になったりするのは正しいでしょうか。
多くの場合、恐らく正しくないと思います。
スイスフランをどのように扱うか。それはスイス国立銀行が決めます。
通貨の発行高や政策金利の設定など、トレード期間が長期になればなるほど、これらの情報を無視することができません。
そして、これらの情報を提供してくれるのはスイス国立銀行です。「次の一手は何か?」を考えるには、スイス国立銀行の発表を参考にせざるを得ません。
このため、短期トレードはともかく長期の場合は、これからもスイス国立銀行の情報を正しいものとして考えることになるでしょう。
とはいえ、スイス国立銀行は正直でない、何をするかわからない、という不信感を世界中に広めたことでしょう。
これはスイスだけでなく、他の先進諸国の中央銀行にもダメージとなった可能性があります。「他の先進諸国が同じことをしてもおかしくない」という印象を与えた可能性です。
すると、日銀の国債大量購入が突然終わる可能性は?などと、日銀にとって面白くないことを考えて行動する人が増えないとも限りません。
まとめ
最後に、スイスショックから教訓を見つけてみましょう。
- 人為的な為替レート操作がある場合、注意
- 取引数量は、控えめに
スイス国立銀行が、ユーロ/スイスフラン=1.20の防衛ラインをいきなり撤廃しました。これが、スイスショックの引き金です。
1.20という数字は、スイス国立銀行が独自に決めたものであって、市場と衝突していました。
こういった、市場の意向と衝突する為替レート設定がある場合、注意が必要です。
また、スイスショックに限らず、何があっても大丈夫なように、取引数量を小さく抑えることも必要だと分かります。
さらに、特定のFX会社について、大混乱でも約定したという実績を考慮したいです。ゆったり為替は、トライオートFXを使っていて難を逃れました。
将来いつか大波乱があっても、この時と同じように約定してくれるのでは?と期待できます。