スイングトレードやポジショントレードをする際、トレール注文(トレーリングストップ)を使う人は多いでしょう。デイトレードでも、使う例があります。
そこで、その使い方、メリット、難しさを確認します。
トレール注文(トレーリングストップ)とは
トレール注文(トレーリングストップ)は、手動でも自動でもできます。また、新規注文と決済注文の両方で使えます。
そこで、まずは自動で行う場合を考察します。
新規注文の場合
新規注文の場合
上のチャートで、現在の為替レートは数字1の部分にあります。赤線部分で新規売りしたいと考えて発注しました。
ただし、実際に新規売りが約定する前に、一時的に為替レートが上昇するかもしれないと考えています(破線部分)。そこで、トレール注文を使います。
その後の値動きは、下の通りです。
為替レートは、上の図の数字2まで移動しました。それに合わせて、新規の逆指値注文も自動で上昇します。
為替レートはさらに上昇するかと思いきや、反落しました。このため、数字3で新規売りが約定しました。
(為替レートが上昇する時は、逆指値注文も上昇します。しかし、為替レートが下落する場合は、逆指値注文は移動しません。)
すなわち、当初予定よりも高値で新規売りできました。利食い目標値に変化がないならば、より大きな利幅を得られます。
デメリット
より高い為替レートで売れる、あるいは、より安い為替レートで買えるというのは、メリットです。しかし、デメリットがあります。
それは、為替レートが動けばチャートの形も変わるということです。
上のチャートの数字1の時点では、為替レートは下落トレンドだとしましょう。すなわち、売りで考えるのは合理的です。
しかし、その後のチャートを見ますと、大きく上昇しています。トレンドが変わった可能性があります。それでもなお、売りの取引を狙っています。
為替レートが期待通りに動けば良いですが、逆の場合、取引開始直後から含み損が一方的に増える可能性があります。
よって、チャートの変化に応じて、当初のトレード方針を変更できる柔軟性が必要です。
なお、新規取引でのトレール注文を使えるFX会社は少なく、一般的でありません。よって、以下、決済注文に限定して考察します。
決済注文の場合
次に、決済のトレール注文(トレーリングストップ)を確認しましょう。
決済注文の場合
下のチャートで確認しましょう。
何らかの理由で、1の部分で買いました。そして、損切りの逆指値注文を発注しました。
その後、下のチャートの通り為替レートが上昇し、2になりました(逆指値注文も、上昇します)。
もう少しで利益確定の為替レートになる…というところで反落し、数字3で逆指値注文が約定しました。その後、さらに為替レートは下落を続けました。
メリット
決済でトレール注文を使えば、為替レートが期待通りに上昇し続ければOK、期待外れで下落してしまっても、当初予定よりも小さな損またはプラスで終えることができます。
損失を限定的にできますし、状況によっては大きな利食いも見込めますので、メリットが大きいです。
デメリット
決済のトレール注文にも、デメリットがあります。数字1の部分で買った後、その後の値動きを見ていきましょう。下の通りです。
取引開始後、少し上昇しただけで反落し、その後再び大きく上昇している様子を描いています。
本来なら、期待通り利食いできて成功です。
ところが、トレール注文を使っているため、途中の小さな下落で決済されてしまい、ほとんど利幅がないという例が出てきます。状況によっては、損で終わってしまう場合もあるでしょう。
実際の米ドル/円のチャートで見てみましょう(セントラル短資FXからの引用)。
数字1で買い、損切りは2の位置です。
為替レートが数字3まで上昇した後、5まで円高になっています。そして、反転して6になっています。トレール注文を使うと、この動きで不都合な目に遭う場合があります。
と言いますのは、トレール注文を使っているので、逆指値注文が円安方向に移動しているからです(矢印4)。
数字5の為替レートの位置によっては、逆指値注文が約定してしまいます。
トレール注文を使わなければ、数字6まで円安になって成功できたかもしれません。しかし、トレール注文を使ったために、損益ゼロあたりで終了です。
これが、トレール注文のデメリットであり、使い方が難しいところです。
明確な基準がない
上のデメリットを見ますと、疑問がでてきます。「トレール注文を採用すべきか、すべきでないか。その基準は何か?」です。
明確な基準がありません。
スイングトレードの場合、トレール注文を使うなら、為替レートと逆指値注文の間の距離は、少なくとも数十pipsは必要でしょう(数十pipsでは小さすぎるかもしれません)。
では、100pips~200pipsにすれば良いか?と言えば、そうでもありません。
これだけ大きな幅でトレール注文を設定しても、実際に逆指値注文が移動を始めるころには、利食い注文が約定してしまっているでしょう。
トレードの実戦例
このトレール注文のデメリットを解消する案として、「自動でなく、手動で逆指値注文の位置を変える」があります。
ここで、ゆったり為替のトレード実戦例を2つ、ご案内します。
実戦例1
下は、豪ドル/円の日足チャートです。
赤の矢印の先で、下向きのピンバーが出現していますので、売りました。スイングトレードです。
その後、数十銭下落しました。そこで、逆指値注文を、売値のすぐ下に移動しました…あとは、下落を待つだけです。
…と思いきや、反転上昇してしまい、逆指値注文が約定しました。微益で終了です。
そのまま放置していたら、当初の逆指値注文が成立してしまうところでした。
約定しても仕方ないと思える位置で、逆指値注文を設定します。しかし、損失は面白くありません。トレールした結果、損失を回避しました。
よって、(微益ではありますが)トレール注文の成功例と言って良さそうです。
逆指値注文を出さない場合
なお、損切りは嫌だという理由で、逆指値注文を出さないことも可能です。この場合、上のチャートを見ますと、最終的には含み益になっていることが分かります。
実際、逆指値注文を使わないと、勝率は上がります。なぜなら、損切りしないからです。
- 損切り注文:出さない
- 利食い注文:実行
これだと、勝率は自然に上がっていきます。しかし、1回の損失で回復不能なダメージを負う可能性もあります。
含み損が膨らむ中で、祈りながら耐えるのも大変です。そこで、損切り注文を確実に設定したいです。
実戦例2
下は、NZドル/米ドルの1時間足チャートです(FXプライムbyGMOから引用)。
赤数字2の位置で、買いました(赤の横線と、ローソク足が交わっている部分)。損切りは赤数字1、利食いは赤数字3です。デイトレードです。
その後の値動きを見ますと、期待通りのトレードだったと予想できます。
ところが、利幅はほとんどありませんでした。なぜでしょうか。それは、逆指値注文を移動したからです。
下のチャートをご覧ください。赤枠内の左側のローソク足を見ますと、大きな上昇と下落が実現したことが分かります。
もう少しで利食いだ!という位置まで上昇しました。そこで、ロスカット注文を、買値のすぐ上に移動しました。
こうすれば、為替レートがいきなり急落しても、利食いで終了できます。では、現実はどうだったか?です。
もう少しで利食いだったのに、急落しました。そして、損切り注文が約定した後、急上昇しました(赤枠内、右側のローソク足)。
結果、利幅はわずか4pipsという結果に終わりました。
放置した方が良かったのか
では、損切り注文を移動せず、放置した方が良かったのでしょうか。
今回のトレードについては、放置が正解です。25pipsくらいの利幅を取れるはずが、わずか4pipsになってしまったのですから。
しかし、もしかしたら、急落後に反発せず、そのまま下落を続けた可能性もあります。
その場合、損失に加えて、「利食い直前まで上昇したのに、損失かよ…」という精神的ダメージが残ります。二重のダメージは、とても痛いです。
まとめ:トレーリングストップを使うべきか
では、まとめです。トレール注文を使うべきでしょうか。それは、トレードする人の投資方針次第でしょう。
使わないという方針
- トレード開始時に利幅と損失幅を決めたら、それを維持すべきだ。
- 損したら、それは仕方ない
使うという方針
- 損切りは、できる限り回避したい
- 利食い直前から損切りに突き落とされるのは、嫌だ
どちらが良い、というものではないでしょう。トレードする人の考え方次第です。
技術的に楽なのは、トレール注文を使わないという選択肢です。と言いますのは、トレードを開始後は放置できるからです。しばらくして約定通知を見て、結果が分かります。
トレール注文を使う場合は、「為替レートと逆指値の間の距離は何pipsにしてトレールすべきか?」と考える必要があります。
手動でやる場合も、「為替レートがどこまで進んだら、逆指値注文をどこまで移動させようか?」と考える必要があります。
簡単で楽で成績も良い、そんな手法があれば良いですが、それは難しい要望です。メリット・デメリットを比較しながら、トレール注文を使うかどうか考えます。
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