博士ネコ1先日の記事「米国は為替市場への市場介入をしないのだろうか?」で、ヒラリー候補が日本の為替政策を批判したという記事を書きました。

「円安→輸出増→日本は貿易黒字増だけど外国は損」 の構図を批判していると予想します(演説を直接聞いていないので、断定できないのが難点です)。実際はどうなのでしょうか。

米ドル/円(USD/JPY)の推移

最初に、米ドル/円(USD/JPY)の推移をざっと確認しましょう。

2012年半ばまでは底なし沼のような円高でした。日銀の巨額の市場介入で米ドル/円(USD/JPY)=75円を割ることなく推移し、2012年後半から一気の円安になっている様子が分かります。

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貿易収支の変遷

では、円安になってから、日本の貿易額はどのように変わったでしょうか。下の表は、財務省貿易統計から得た数字を表にしたものです。日本と世界全体の貿易についてのまとめです。

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輸出も輸入もおおむね増加していますが、輸入の方が増加額が大きいです。貿易赤字はあっという間に巨額になりました。結果として、日本は円安で恩恵を受けていません。

このため、一気の円安だったにもかかわらず、国際会議などで円安に対する批判は聞かれませんでした。日本を批判する理由がないからです。

「日本の貿易赤字拡大=他国の貿易黒字拡大」ですから、日本の貿易赤字拡大は歓迎ということでしょう。

対米貿易収支の変遷

次に、対米貿易の状況を考えましょう。上の表と下の表でデータの年が少し異なりますが、ご容赦ください。うまくデータを拾えませんでした。

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対米貿易に関しては、少し様相が異なります。輸出・輸入ともに増えていますが、「輸出-輸入」の額にあまり変化がありません。ということは、日本の円安が日米貿易に与えている影響は小さいと予想できます。

あるいは、本来ならば日本の貿易黒字は大きく減少するはずだったのに、円安が原因でほとんど変化なしになっているかも・・・という仮説も可能ではあります。

しかし、その仮説を補強するデータを見つけることができませんでした。

2015年の貿易黒字1兆円増の理由ですが、日米の景況感格差が原因では?と予想します。米国の方が景気が良いのですから、消費額も増えるでしょう。すると、米国の輸入額も増えることになり・・・対日赤字が増えたという構図です。

ヒラリー候補の対日円安批判は何だったのか?

さて、以上のように考えると、ヒラリー候補の対日円安批判が正当とはいいがたいのでは?と考えることも可能です。確かに、対日貿易赤字が大きいことは事実ですが・・・。

この発言の意図は、「輸出業者及びそこで働く人の票が欲しかった」ということではないでしょうか。「円安→輸出業者が苦しい」はとても分かりやすい構図ですから。

私たちとしては、何かに対応するとき、「それは事実か?」という点から確認し、事実を根拠にして考える習慣をつける必要があるでしょう。「あの人が言っているんだから、それは正しい」というパターンは危険な香りが漂います。

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